調査に加えてもらえた、と、ちょっと出来る女になった気分のわたしは、うきうきしながら事務所に出勤。
めずらしく、社長が先に出勤していたのだ。
「昨日はありがとな。」
その言葉が嬉しく、「はい!」と元気に答えたわたし。
そのあと、社長の話しを聞いて、実はちょっと落ち込んでしまったんですよね。
「いやー。あのモーテルのおばちゃん、男一人で入ってくるのを見ると、怒鳴りこんでくるんだよなー。」
はい?
たったそれだけで、わたしは呼ばれ、その場に放置されたの?
よくよく話しを聞いてみると、ホテルによって、一人で入れるところと、やたらカメラでチェックをしているところがあるのだという。
特に、風俗の出入りを禁止しているところは、入口に入るまでのチェックが厳しいのだとか。
そんなこと、知りもしなかった。
ってか、普通は気にしないところですもんね。
大きな探偵事務所だと、調査員も何人もいるし、最初から男女ペアで尾行調査をするところもあるみたいです。
不倫や浮気調査だと、男女ペアの方が動きやすいこともあるみたいです。
でもうちは、基本的には社長一人ですからねー。
なので、余計、ホテル事情にも詳しくなくてはならないのだとか。大変ですね。
わたしの仕事は、主には電話番と、時々訪れる訪問者の対応(ほどんどが配送業の人とか、大家さんくらいですけどね)、それに報告書の作成くらいなんです。
なので、それ以外の時間は事務所の掃除とか、本棚、書類の整頓。
さすがにそれすらすることがなくなってきた、今日この頃。
思いついたことをしてくれたらいいよ、と簡単に社長は言ってくれる。
適当にパソコンを開き、他の探偵事務所のホームページをチェックし、うちものものと比べたりしてみる。
どんなホームページなら、依頼しやすくなるのかなー?
そんなことを考えていると、社長の探偵用の電話が鳴る。
すぐさま、出る社長の声は、“あなたの味方ですよー”と、言わんばかりの優しげな声。
ところが、電話の向こうの声は、怒鳴っているのか、少し離れた場所にいるわたしにまで聞こえてしまうくらいの声。
しかも興奮しているのか、しゃべりまくっている。
さすが社長も、少し電話から距離を置いている。
わたしは、すかさずパソコンから離れ、本棚の整理を始める。
あまりの興奮ぶりに、その内容が気になり、社長の近くにある本棚に移動したのだけれど・・・。
なにか苦情の電話かと思いきや、これ、相談の電話だったんですよ。
これほど興奮した人を相手に、変わらない調子で話す社長。
しばらくすると、相手も落ち着いてきたようです。
どうやら、部屋の掃除をしている最中に、旦那さまの浮気の証拠を見つけてしまったらしく、つきとめてやるーっとばかりの勢いで電話してきたみたいですね。
最後には、あまりの興奮ぶりを自分で反省したらしく、社長に謝っているようでした。
昼から、面談の約束をして、切られた電話。
このような人、さほど珍しくもないのだとか。
泣きながら電話してきて、事情を話しだすまで1時間以上かかった人もいたらしいので、まだ楽だった、と。
探偵さんって、心理学的なことも必要なんですね。
どんな相手にも落ち着いて話せる状態に持っていかないといけないのですから。
いつかわたしも、依頼者からの相談を受けられるようにしたいものです。 |